■トイ・ストーリー2とCG

   2000年11月2日、映画「トイ・ストーリー2」(1999年秋全米   公開、2000年春日本公開)のDVDとビデオが発売された。ここでは、   「トイ・ストーリー2」に使われたCG技術を振り返ってみよう。  ■DVD・ビデオ版と映画版の違い

  ・キャラクターの再配置     さすがはピクサー(米Pixar社)!芸が細かいと思った。通常、映画の    ビデオ化は、縦横比の違いから左右をカットしてしまうものだが、ビデオ    を見る限り、左右がカットされたという痕跡は全くない。    これは、ピクサーがDVD・ビデオ化のために、キャラクターたちを配置    し直して、1つの画面に収まるように配慮してくれたおかげである。そう    いえば、「バグズライフ」(1998年)のビデオ化の時もそうだった。     ただ、キャラクターの再配置と一言で済ませてはいるが、1ショット(数    秒〜十数秒)の再制作に(コンピュータ1台で)数日間のレンダリング時    間が必要であることを考えると、ピクサーのDVD・ビデオ化にかける熱    意が感じられるというもの。     ※よくよく考えれば、キャラクターの再配置などという離れ業は、オー      ル3DCG映画だからできる事。通常のVFX(主にCGと実写の合      成)ではできるはずもない。だから、キャラクターの再配置ができる      という点一つを取っても、「トイ・ストーリー2」のすごさがわかる。   ・日本語対応     オープニングのタイトルを見て驚いた。「TOY STORY 2」の表示のすぐ後    に、日本語の「トイ・ストーリー2」というタイトルが表示されたことだ。    その後も、「ザーグのエネルギー」など、いたるところに日本語表示がな    されている(もちろん字幕スーパーのことではない)。    仕掛けは簡単! 物体に貼られた文字のテクスチャ(模様)を英文から邦    文に変えてマッピングし直すだけだから、処理としては単純。ただ、この    ような事をわざわざやってのけてくれるピクサーに感激!     ※映画のシーンの中の看板の英文を日本語に変えることは、普通はでき      ない。これもフル3DCG映画ということと、再レンダリングの労を      惜しまないという、2つの条件が重なってできた事である。

    ■オープニングのゲームシーンが最高!   ・バズがザーグに倒される!?    「ガンマ星域、セクター4……」で始まるオープニングのシーンは、まさに    スター・ウォーズを思わせる迫力がある。宇宙飛行士人形バズが大気圏に    突入するショットは、映画「アポロ13」の大気圏突入のシーンとそっくり。    また、バズがザーグ(悪の帝王)のエネルギーを捕らえ、その後、ザーグの    攻撃を受けて倒されるところは、映画「スター・ウォーズ」でジェダイ騎士    の生き残りオビワン・ケノビがデス・スターの吸引ビーム発生装置のエネル    ギー源を切り、その後、ダース・ベイダー(帝国軍の悪の化身)に倒される    シーンとうりふたつである。    ただ、よくみると、このシーンは「TVゲーム」であったことがわかる。   ・バズが惑星に着陸するショットに注目。     バズがセクター4の惑星に着陸する際、惑星の表面にある小石や岩が飛び    散る。これなども物理特性アニメーションが効果的に使われた良い例であろ    う。

    ■魔法の杖とは?   ・カウボーイ人形ウッディをさらった おもちゃ屋アルを追いかけるため、バズ    とその仲間がピザ屋の車で追跡するシーンがある。アクセルを踏んでも車が    動かず、うろたえるバズに、エイリアン(景品人形)が「魔法の杖」と呼ぶ    シフトレバーの存在を教えてくれる。   ・「魔法の杖」とは、意味深な言葉だ。これは、CGの歴史を築き上げてきた    男たちに取って、伝説的な響きを持つ。   ・CGの父サザーランドは、VR(バーチャル・リアリティ)の提案者でもあっ    た。彼の学生であったジム・クラーク(後にSGIとネットスケープ社を創    設)はこれをさらに発展させ、「魔法の杖」と呼ばれたコントローラと、頭    に装着できる立体ディスプレイとを用いて、今日のVRの原型を作り上げた。    これが今から30年も前になされたのだから驚きである。   ・ピクサーの共同設立者カトマルは、このCGの草創期をサザーランドやジム・    クラークらと共に築き上げてきた伝説の人物である。「魔法の杖」という言    葉は、ミスターCGであるカトマルの精神が「トイ・ストーリー2」の中に    宿っていることを物語っているようだ。    ちなみに「トイ・ストーリー2」の中のCGキャラクターたちの微妙な表情    は、ピクサーの特許「細分割曲面技術」によって作られているが、この基礎    理論は1978年にカトマルとジム・クラークによって発表されている。

    ■制作マシンは?   ・モデリングはSGIのオクテイン(Octane)を使用。データは3次元スキャ    ナの使用の他に、これまでに蓄積された数千体のモデリングデータの組み合    わせで行われる。特にキャラクターたちの皮膚や生地には、究極の曲面であ    る細分割曲面が使われた。    また、アニメーションには、ピクサー独自の「マリオネット」というソフト    が用いられた。   ・レンダリングにはサンのワークステーションが用いられた。使用ソフトは    「レンダーマン」。映画「ジュラシック・パーク」や「ターミネーター2」    で一躍脚光を浴びた、ピクサーのレンダリングシステムである。    そういえば、1980年代に始まったハリウッド映画におけるCG技術の躍    進は、ハードではSGI(ジム・クラーク設立)、ソフトではピクサー(カ    トマル創設)のレンダーマンが築き上げてきたといっても過言ではない。   ・なお1フレーム(映画では1秒間に24フレーム、ビデオでは1秒間に30    フレーム)のレンダリングに必要なレンダリング時間は、ワークステーショ    ン1台あたり約1〜2時間(ビデオの場合、映画では十時間)、使用したC    PUの数は1400個であった。  本記事は拙著「コンピュータグラフィックスがわかる」(技術評論社)   の第1章「トイ・ストーリー2に見るCGの世界」(P11〜18)を参考にした。



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